Rubber Soul / ラバー・ソウル

いわゆる「泣き別れミックス」という変てこステレオ、個人的にはそれほど苦手ではない。巷で不評なのは例えば「ポールのベースが左なのにボーカルは右なのは不自然」ということらしいが、スタジオで演奏する事を考えれば割と普通。モノラルのベースアンプは置いた場所から響いてくるし、ボーカルは空から降ってくる。ロックにおける定位なんてあくまで擬似的なものだし、変わった定位くらいに考えればすむ。あとコピーする時に音が取りやすいのもメリット。
ただ一般的な定位でないのも事実なので、今の時代にわざわざすることではない。ビートルズ初CD化に際して、ジョージ・マーティンがこのアルバムの定位を変える「リミックス」を施した事自体はよい判断だと思う。問題はリミックス工程においてよけいな処理をしてないかどうかだ。

聴き比べ対象マスター

A. 1987 master
B. 2009 stereo remaster
C. 1965 original stereo mix

Cは2009リマスターに際し突然復刻された「泣き別れミックス」で、何故か「The Beatles In Mono」ボックスのラバー・ソウルにボーナスとして収録された。マスタリング自体は2009年らしいのが気がかりだが、そんなに弄ってはいないだろうと勝手に期待。
2009モノラル・ミックスについては参考程度。泣き別れミックスと逆の理由で、モノラル自体あまり好きではない。それこそ「ありえない」定位だし、よほどの事がない限りモノを選ぶ事はないと思う。

Drive My Car

ビートルズ作品の中でも人気の高いアルバムの一曲目に対し、恐らく世界最短のレビューを試みる。判定基準は、

「タンバリンの皮の音がするかどうか」

判定;C > A > B

Norwegian Wood

右チャンネル、フォークギターの弦の張りが感じられるかで
1987 > 1965 > 2009

Yon Won't See Me

1987ジョージ・マーティンmixの方がよっぽど変な定位。音はまあ、元気な感じでいいですね。
2009はこの曲だけ聴くと、うーん失敗かな。
ついでに聴いたモノラルミックスが一番良かった。いきなり前言撤回。

Nowhere Man

やはり楽器の鳴りは1965が一番よい。時折クロストークが気になるが、音の響きで1965。
次点でバランスのよい2009。

Think For Yourself

2009マスターって、良く言えば音密度が高い、悪く言えば空間埋め尽くして窮屈な気がする。スネアの音が堅いけど、タイトなサウンドに仕上がっている1987マスターが好み。

The Word

1987の音に慣れちゃっているというか、2009入手する前に聴き直してみたらリマスターの必要を感じないほどだった。2009はまあ、これだけスカスカなのにベースそんな持ち上げなくていいよ。
埋めるならモノラルの方が良い。1987 > モノ >2009 >1965かな。

Michelle

2009の音バランス無茶苦茶じゃないか?そんな大声で口説かれてもなあ。
ローファイなバックも合わせ、ポールの声が一番エロく聴こえる1965が良い。

What's Goes On

これは圧倒的にモノラルだなあ。ステレオだとギターがちょこまか邪魔してるようにしか聴こえないけど、モノだと仲良さそうでほのぼのする。

Girl

ジョンの声が一番艶っぽく聴こえるのはどれかという点にのみ着目し、自分の選択は1965。泣き別れミックスが良い効果を生んでいるのかも。2009はマックシェイクでもすすってるのか。

I'm Looking Through You

2009のステレオとモノラルだけで比較すると、モノの方が良いという意見に賛同したくなる。どちらも空間を埋める方向なんだけどアプローチが全く違う。モノは限られたスペースの中で前に出てくる音と後ろに引っ込む音を入れ替えることで重層的な空間を作ろうとしているのに対し、ステレオは広大なスペースで立体感を出すために空けておいた場所にペンキを垂れ流したような、ノッペリとした空間だ。「空気感が失われた」という表現もここから来るのだと思う。
それでも自分の中でモノラルの評価が1987を超えないのは、これはもう好みの問題と、あるいはアナログマスターの劣化かも。

In My Life

これはモノかな、と思ったら1965ステレオのほうが好みだった。ノイズが残っている分ドラムが自然に響く。2009はコーラスが分厚くなって、これはこれで次世代フォーマットとしては良いのかもしれない。

Wait

1965ステレオの演奏があまりに荒々しいのに驚く。ここまで曲の印象が変わるものか。モノミックスより暴力的だ。
ロックバンドとしてのビートルズの凶暴性を示してくれた1965ステレオを取る。

If I Needed Someone

一転して軽めの演奏。と思いきや、間奏の高速アルペジオを境に曲の雰囲気が変わる。結構面白い曲だったんだなと思ったのもつかの間、1987と2009では引っ込んでいて、淡々とエンディングまで進む。モノミックスに至ってはほとんど聴こえない。どっちが正しいというか狙ったサウンドなのか分からないが、1965ステレオミックスでの変化が楽しい。

Run For Your Life

低重心で駆け抜けるモノミックスが心地良い。ステレオミックスはどれも、左チャンネルに押し込められたタンバリンとギターのシャカシャカが重心を上げて軽くなってしまう。2009はドラムとベースを強調して重心を下げようとしているが、なんかチグハグな感じ。

総評 & ベスト・バイ

後半になるにつれて1965ステレオとモノラルの聴き比べみたいになってしまった。
1987年という比較的早い時期に、デジタルリミックスに踏み切ったジョージ・マーティンの先見性は凄いと思うし、オリジナルミックスとの差は恐らくノイズ処理に起因するもの。聴き比べなければ何の問題もないと思うし、1987の方が良いと思うリスナーの方が多いはず。
2009年リマスターはなぜ、1987ミックスをベースとする事にしたのだろう。初期4枚をモノラルからステレオに戻したように、Help!とRubber Soulもオリジナルマスターに戻しても良かったのでは。デジタルミックスまで施された音源をリマスターだけで処理するくらいならミックスから手を入れるか、オリジナルマスターからジョージ・マーティンと同じ定位で作り直すべきだったと思う。
個人的なベストバイはモノマスターなんだろうけど単体販売していないので、数百円で入手できる1987。

The Beatles/Rubber Soul
2017/03/17 0
#リミックス#デジタルリマスター#Beatles

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